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「恵方巻」の内緒話・はしたなき奇習

▼「恵方巻」はどこから来たのか

節分の行事といえば「豆まき」と相場が決まっていたのが、大阪起源の「恵方巻」という、お行儀の悪い奇習が全国的に定着して久しい。

縁起物としての「丸かぶり寿司」に関する最古の現存資料は、昭和7年(1932)「大阪鮓商組合後援会」発行の宣伝チラシという。その内容は以下の通り。
「巻寿司と福の神」
節分の日に丸かぶり

この流行は古くから花柳界にもて囃されていました。
それが最近一般的に宣伝して年越には必ず豆を年齢の数だけ食べるように巻寿司が食べられています。
これは節分の日に限るものでその年の恵方に向いて無言で一本の巻寿司を丸かぶりすればその年は幸運に恵まれるということであります。
宣伝せずとも誰言うともなしに流行ってきたことを考えるとやはり一概に迷信として軽々しく看過すべきではない。
‥‥後略‥‥
昭和七年「大阪鮓商組合後援会」発行宣伝チラシより
まだ「恵方巻」の名は見えない。注目すべきは「この流行は古くから花柳界にもて囃されていました」の一文。

当初は大阪のごく一部だけの流行で、戦後はすたれていたものを、1970年代、大阪の海苔問屋など業界団体が宣伝活動を再開、昭和60年(1985)頃に到って大阪で大流行、やがて周辺都市部にも知れ渡るようになる。

昭和60年(1985)の『秋田魁新報』に「好運を呼ぶ巻き寿司」の広告がある。文面は下記の通り。
幸運を呼ぶ巻きずし

丸かぶり

一本四〇〇円


鬼は外、福は内
節分の日にその年の恵方を向いて
巻きずしを丸のまま食べると
幸運がやってくる。
恵方とは其の年の良い方向で
今年は[西南西]の方向に
歳神様が宿ってるのです。
家族全員それぞれその方向に向かって
無言で巻きずしを切らず丸ごと食べると
幸運と健康がかなえられる。
七色の材料を使った幸運の巻きずし。
鬼は外!!福は内!!そして福は寿司。
丸かぶりを食べましょう。
お近くの秋田県すし組合加盟店でどうぞ。

●協賛 高岡屋会
秋田県鮨商環境衛生同業組合加盟店
協賛の「高岡屋会」とは、「幸福のり」のブランド名で名高い海苔の老舗「高岡屋」(本社・東京)のことだろう。同社が大阪でのブームを全国に広げ、海苔の拡販につなげようと、各地の寿司屋組合と共同企画した広告の秋田版と思われる。

昭和64年(1989)広島県内のセブン-イレブン一部店舗にて、丸かぶりする「巻寿司」を節分の縁起の良い風習として紹介。「恵方巻」の商品名で売り始める。同県の店舗オーナーが「大阪では節分に巻寿司を丸かぶりする」と提案したのがきっかけであった。

平成7年(1995)セブン-イレブンの関西以西で販売。
平成10年(1998)全国のセブン-イレブンで販売。

そのブームにコンビニ各社、スーパーマーケットまでも便乗、全国展開するようになり、大阪のローカルな奇習が全国的に定着する。


▼上方落語に「恵方巻」の起源を聞く

気になるのは、昭和7年(1932)「大阪鮓商組合後援会」発行の宣伝チラシにみえる「この流行は古くから花柳界にもて囃されていました」の一文。

現代の「恵方巻」の起源と思われる花柳界の風習とは、一体どのようなものであったのかと調べていた数年前、古い上方落語に「巻寿司の丸かぶり」に関する興味深い話があるのことを知った。

題名は『遊山(ゆさん)船』。江戸落語の熊さん・八つぁんに相当する喜六・清八の二人は浪速橋へ夕涼みにでかける。氷屋や西瓜屋が店を出し、花火が打ち上がるにぎわいのなか、川面に目を落とすと船遊びに興じるたくさんの屋形船(遊山船)。


浪花百景「浪花橋夕涼」絵師・歌川国員 出版・嘉永年間


屋形船(遊山船)明治期

屋形船の上には舞妓や芸妓をはべらせた旦那衆。やがて例の黒い棒状の「海苔巻」が運ばれてくる。そのシーンの抜粋は以下動画で。

師弟関係にありながら両者の語り口はもちろん、内容も少し違うので聞き比べると面白い。


上方落語「遊山船」六代目 笑福亭松鶴(1918-1986)

「尺八喰い」=「丸かぶり」
「まぁしゅう」=「舞妓衆」?
「きゃあ」=「客」
「ねずって」=「ねぶって」
「席駄」(せきだ)=「雪駄」(せった)に同じ、「草履」のこと


上方落語「遊山船」七代目 笑福亭松鶴(1952-1996)

年端もいかない舞妓に太い「海苔巻」を「尺八喰い」させ、目を白黒とする様子を見て喜ぶ旦那衆。これが現代の「恵方巻」の起源か・・・・・・。

古くは節分にかかわらず花柳界において行われた、このセクシャルな遊びは、商売繁盛と「舞妓に良い旦那(スポンサー)が付くように」と願う、オマジナイの意味もあったと言われている。花柳界(水商売)は今でも縁起をかつぐ風潮が強い。

以上のような花柳界におけるお座敷遊びと、陰陽道を起源とする「恵方信仰」(歳徳神信仰)を結びつけて、縁起の良い「恵方巻」が創作された。

関連リンク
歳徳神 - Wikipedia

上方落語の喜六・清八が現代に現れ、水商売でもないシロウトの老若男女が、恥じらいもなく「巻寿司」を丸かぶりするのを見たら、開いた口がふさがらないことだろう。


上掲画像は「恵方巻撲滅をめざす@ ウィキ」で配布している「恵方巻撲滅チラシ」を縮小したもの。「セクハラ」と断罪するのは野暮な気もするが、「恵方巻」花柳界起源説にまつわる情報がまとめられている。

関連リンク
【破廉恥】恵方巻撲滅をめざす@ ウィキ - ウソ風習の恵方巻の正体を暴いてやる!!


| 食材・食文化 | 08:00 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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