二〇世紀ひみつ基地

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人徳の商家・那波家

秋田市大町三丁目の那波商店は、清酒(銀鱗)、味噌(山蕗)、醤油の製造販売、呉服衣料品(升屋)の販売を手がける、秋田を代表する老舗のひとつ。当主は代々那波三郎右衛門を襲名する。

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那波呉服店・大正期 現在の交通公社付近

秋田に来る前は京都室町の両替屋で、諸国の大名に資金を用立てるほどの財力だった。初代は佐竹氏の常陸藩時代から、京都の佐竹屋敷に御用商人として出入りする。五代目の時に火災に遭い、那波家ではほとんどの財産を失う。佐竹家に再建の資金として借金返済を願い出るも、久保田藩の経済事情も悪く「秋田に来れば良きにはからう」と言われ、止むを得ず久保田に入ったのが宝永五年(1708)。藩では、那波家を御用商人として取りたて、さまざまな便宜を図り、これまでの義理に酬いる。

電気の時代になっても、維持費の安いランプを使い続けた那波家の家風は「ケチ」といわれる。しかし、質素な生活で倹約した分は寄付金に当て、火災、飢饉となると被災者に援助の手をさし伸べる、人々に尊敬される家だった。

明治十九年四月三十日、秋田町を大火(通称・俵屋火事)が襲う。午後十一時過ぎ川反四丁目から上がった火の手は、おりからの三十メートル近い南東の風にあおられ、外町、保戸野の半分、さらに八橋から寺内までも飛び火し、三千四百五十四戸を焼失、死者十七人、行方不明二人、負傷者百八十六人。当時人口三万そこそこの秋田町の、半分近くが焦土と化した歴史的大火である。

当時キリスト教布教のために秋田町に滞在していた、米国人宣教師チャールズ・ガルストの婦人、ローラ・ガルスト女史は、次のように記している。

(出火当時)恐ろしいほどの風が吹いており、数時間のうちに、街は荒廃した。火が街を荒らすのを止めるために、消防士が火の行く手にある一番みすぼらしい掘立小屋を壊すことさえもままならなかった。秋田弁で「いたわし」(もったいない)と人びとは叫んだ。それに「仕方がない」(困った、気の毒、申し訳ない)がこの呪われた街を救うためのあらゆる努力をマヒさせた。(中略)
焦土の街に朝が訪れた。いくつかの耐火倉庫(土蔵?)が空を背景にわびしく立っていた。町の商業地区のすべてが焼失した。(中略)
抄訳『ローラ・ガルスト回想録』より

この大火の中心にあって、那波家は奇跡的に延焼を免れている。

火の手が大町の那波邸に迫りつつあるころ、「那波家を焼ぐな!」と叫びながら、日頃から那波家に世話になっている何百人もの町人が駆けつけた。大屋根に上り、水に浸けたモクむしろ(男鹿の海藻で編んだムシロ)を屋根いっぱいに広げ、邸宅をすっぽり覆い、飛んできた火の粉は、屋根に据えつけた水がめにホウキを浸し、片っ端からたたき消す。さらに那波家周辺の屋根へ消防団や男たちが上がり火の粉を払った。家財道具を旭川対岸まで運びだす者もいる。

当時、那波家の道をはさんだ向かい(当時の山王大通りは、数メートルの狭い小路だった)にあった、お菓子の「榮太楼」と周囲の数軒の家も、町人の活躍と、榮太楼の裏に那波家の土蔵があって、土蔵と榮太楼の間に十坪ほどの用水池があったことから、九死に一生を得、それ以来、榮太楼では那波家の恩を忘るべからずと、子々孫々に言い伝えているとか。

ようやく火がおさまった翌朝、荒涼とした風景のなか、ポツンと那波家と周辺の家だけが焼け残っていた。那波家の人徳、伝統的な福祉の心は庶民によって報われることとなった。

この俵屋火事で那波家では、消防に尽力した各消防組に対して金五十円ずつを贈り、ほかに白米一千俵を出して被災者に配分し、文政十二年、那波祐生が創設した救済組織・感恩講の赤倉(緊急用)からも一千俵を救済に充て復興に寄与し、多くの被災者に感謝された。

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焼け残った那波家の一部
左に曲ると川反
昭和四十三年頃に解体、跡地に呉服と衣料品の「升屋」がオープン

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右手に升屋(那波商店呉服衣料品部)

火災から那波家を守った町民の心情を突き動かす要因となった、感恩講と那波祐生のことは続編で……。

| 秋田市今昔 | 23:00 | comments:1 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

いつも興味深く拝見しています。知らない土地の話とはいえ、昔からのひとびとの息吹が感じられるような気がして、読んでいて楽しいです。

| シン | 2005/03/13 10:02 | URL |















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