二〇世紀ひみつ基地

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達三少年のスケート遊び

石川達三が秋田市楢山裏町時代を回想した随筆には、冬の暮らしに関する記述が多い。物心のつき始める三歳から七歳まで秋田市で暮らし、その後は雪の積もらない東京に出ているため、幼いころの雪国での生活はとくに印象深く心に刻まれたのではないだろうか。

達三少年たちは、雪道に「氷の道」(スケートリンク)をつくって遊んでいる。

 雪道を踏みかためて、私たちは毎日すべっていた。小学校の五年ぐらいになるとスケートをはき、もっと小さい子は(まくりがね)という、もっと安全な道具。そして私たちは(どう)と言って極く安全な、女の子でもはけるような物ですべっていた。
 自分たちのいつも遊ぶ場所を、五十メートルばかり踏み固め、夕方水をまいて夜のうちに凍らせておくと、翌日は水盤のようになっていて、いくらでも滑れる。この氷の道はほとんど融けることがなかった。新しい雪が降ると、また子供たちが整備作業にはたらく。そういう時はみんな気がそろって、せっせと労働をしたものだった。通りがかりの大人たちが足を滑らせて、(こんなにして、危ないじやないか)といって怒った。怒られても、だからと言って吾々の遊び場を失うわけには行かない。‥‥後略‥‥

大正初期の秋田市、道路が子どもらが心置きなく遊べる場所だった、幸福な時代の一コマ。

「スケート」は、下駄にスケートの刃を取り付けた「軍艦」などと呼ばれた「下駄スケート」のことだろう。そのほか、下駄に太めの鉄板を埋めこんだもの、さらに二本の鉄板を埋めこんで安定感を増したものなどがあった。

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下駄スケート

さて、裏町と同様に表町(ト一屋楢山店の通り)にも、その町内の子どもらが「氷の道」をつくっていたのだが、ある日、裏町の少年たちが相談して、表町の「氷の道を壊す」という計画を実行する。

 計画は極秘だった。夕飯のあと、日が暮れてから町角に集れ。誰にも言うな。金槌を持って来い。‥‥というのだった。囲炉裏のそばで鍋をかこんで、父と母と兄たちと、あたたかい食事をすませてから、私はそっと家を出た。二人の兄が一緒であったかどうか、記憶にはない。集ったのは七八人だった。声を忍んで、私たちは路地をぬけて行った。表町の商店街も冬の夜ははやく大戸をおろして、人通りもなく、灯影もすくなかった。
 私たちは適当な間隔をおいて氷の道の上にうずくまり、持ってきた金槌で氷に穴をあげた。早く、早く、人に見つからないように。‥‥‥金槌のうしろの釘抜きが尖っているので、氷を割るにはその方が都合がよかった。そのとき私は罪を意識した。自分がいま悪事をはたらいているのだということを、はっきりと意識した。おそらく私の生涯に於て、自分の罪を意識したのはこの時が最初であった。‥‥後略‥‥

石川達三「私ひとりの私」文藝春秋社 より


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楢山裏町・石川達三の旧家近く

似たようなことがあった。
自分の生まれた楢山の町内は学区の境界にあって、となりの町内の子どもたちは違う小学校に通っていた。そのせいか対抗意識のようなものがあり、何かある度にいがみ合い、喧嘩に発展することはなくとも非常に険悪な仲だった。

町内の境界にあった原っぱ(児童公園)は、どちらの町内の子どもたちも遊ぶ共有の場だった。冬休みの天気のよい日、大人たちも加わって、そこに巨大なトンネル形カマクラをつくった。最初はカマクラをつくるつもりが、調子に乗ってでき上がったら、迷路のような長いトンネルになったのだ。

日の暮れるころには完成し、「明日ゆっくり遊ぶべ」と家に帰り、翌朝、公園に行ってみると、一日がかりでつくった雪のトンネルが、めちゃくちゃにされていた。「やられだ!」「昨日、遠くから、となりのヤヅらがずっと見でだべ。あれがだの仕業だ‥‥」。となりの町内の子どもたちが、夜のうちに壊したのだ。

目には目を、歯には歯を、隣りの町内の連中が、公園に大きな「雪の迷路」をつくったときは、夜になって壊してやったのだが、そのとき公園には一人の見張りがついていた。そいつが仲間を呼びに行こうと走りだしたところを捕まえ、無事に作戦を成功させる。

達三の住んだ裏町と表町は、どちらも築山小学校の学区であり、そんなに険悪な仲だったとは考えにくい。ただ「表町」「裏町」という町名が気になるところで、表町の子どもたちは、裏町のことを見下していて、それが確執になっていたのかもしれない。


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| 秋田市今昔 | 23:00 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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