花祭り・田の神・お花見

キリストさんの誕生日を浮かれ騒ぐ、いちおう仏教徒であるはずの日本人のほとんどが、お釈迦さんの誕生日を知らず祝うこともない。
釈迦牟尼の誕生日・灌仏会(かんぶつえ)は旧暦の四月八日ということになっていて、秋田仏教会では桜の花の咲くころ、四月二十九日、みどりの日に、寺町の寺院が持ち回りで会場となって開かれる。お寺を出発した稚児行列は、誕生仏を乗せた白い象を曳いて大町周辺を一周して戻り、誕生仏に甘茶を掛け法要をとり行う。


仏教の花祭りは、夏のお盆と同じく、日本古来の習俗と仏教行事が融合したもの。旧暦四月八日のころ、霊山に登って花を摘み、山の神様を里に向かい入れる行事が各地にあり、「春山入り」「花の日」「花祭り」などと呼ばれていた。
山の神は里に降りて田の神となる。田の神(稲穂の穀霊)の名を「サ」と呼び、「サ」を迎える祭りを「サオリ・サ降り」や「サビラキ・サ開き」という。田植えが終り、田の神がひとまず山に帰られることを「サノボリ・サ昇り」というのは、「サナブリ」の語源で、この日は「サナエ・早苗」を植える「サオトメ・早乙女」を上座に据えて、サの神(田の神)を送る饗宴を開き皆の労をねぎらう。
「花祭り」のころは桜の花を愛でる花見の季節。桜は古くから農耕に関連して日本人に親しまれ、桜の開花により田植えの時期を知り、咲き具合、散る姿を見てその年の稲の収穫を占った。

葉と花が一緒に開くヤマザクラ
サの神(田の神・穀霊)が「サクラ」の語源という説がある。「サ」は穀霊、「クラ」は穀霊が降臨する「神座・カミクラ」、すなわち「サクラ」は農耕の神が宿る依り代(ヨリシロ)というのである。それを象徴する神が「木花之佐久夜毘売命・コノハナサクヤヒメ」。コノハナサクヤヒメは山の神の総元締め「大山祗神・オオヤマツミノカミ」の娘で、父の命を受け、桜花に姿を変え、稲の穀霊として地上に現れたとされる見目麗しき女神。
田植え前の一日、野山に出て山桜の木の下で、稲の成熟を神に祈願する行事が、お花見のルーツという。花見酒は神に捧げるお神酒であり、人はそのお下がりを頂戴した。「サケ・酒」は「サカズキ・杯」に、「サカナ・肴」は「サラ・皿」に載せて……、これらの頭にサの付くモノも、サクラと同じく神と関わりのあるコトバという説も。
東北の農民は、桜に先だって開花するコブシの花を「田打ち桜」または「種まき桜」と呼び、この花が咲くと、田起こしを始めても良い時期とし、花の咲く向きで稲の豊凶を占った地方もあるという。芽吹き始めた山里に点描の如く白い花を開くコブシの花、これもまた農耕の神が宿る「サクラ」であった。

| 祭り・民俗・歳時記 | 23:00 | comments:1 | trackbacks:3 | TOP↑
⇒ 木村 (06/23)
⇒ 経法大卒業 (06/16)
⇒ 川端たぬき (05/30)
⇒ (04/26)
⇒ 洋 (03/29)
⇒ 川端たぬき (03/29)
⇒ 秋田のSH (03/28)
⇒ taic02 (03/23)
⇒ のりぽん (02/05)
⇒ 川端たぬき (02/01)